今回は、飯塚市の弁護士が「遺産分割調停・審判の管轄」について説明します。
【遺産分割とは】
遺産分割とは、被相続人(亡くなった方)が遺言を作成せずに死亡した場合に、一度、相続人全員の共有財産となった相続財産を、各相続人らの話し合いによって、具体的に分配することをいいます。
【遺産分割調停・審判】
1 話合いで決まらなかった場合
相続財産の具体的な分配方法が、各相続人の話し合いで決まらなかった場合、または、話合いができなった場合には、各相続人は、その分配を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項)。
そして、家庭裁判所への請求については、手続き上、調停と審判の2つを利用することができます。
2 調停
調停とは、一般市民から選ばれた調停委員が、裁判官とともに間に入り、話合いによる当事者の合意によって紛争の解決を図る手続です。
3 審判
審判とは、裁判官が、当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官が行った調査の結果等種々の資料に基づいて、判断し、決定することで、紛争の解決を図る手続きです。
【管轄】
1 管轄とは
管轄とは、多種多様に存在する裁判所において、当該事件を取り扱うことができる権限を有しているかの基準のことをいいます。
そして、管轄権を有する裁判所のことを、管轄裁判所といいます。
2 遺産分割調停と遺産分割審判の管轄
遺産分割調停の管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定めた家庭裁判所となります(家事事件手続法245条1項)。
また、遺産分割審判の管轄は、相続が開始した地、すなわち、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定めた家庭裁判所となります(家事事件手続法191条1項、66条1項)。
【管轄についての問題点】
1 審判移行と付調停について
遺産分割調停が不成立になった場合、当然に、調停から審判に移行します(審判移行)(家事事件手続法272条4項)。
また、調停を行わずに、遺産分割審判を申立てた場合、裁判所は、職権で、審判手続きを行わず、調停手続きを行うことがあります(付調停)(家事事件手続法274条1項)。
2 審判移行と付調停における問題
調停の場合と審判の場合では、条文上、管轄裁判所が異なる場合が生じることから、調停と審判とで管轄裁判所が異なる場合、審判移行や付調停になった際に、申立てた裁判所で、そのまま調停や審判が行われるのか問題となることがあります。
具体的には、被相続人の最後の住所地が北海道で、相続人である申立人と相手方の住所地が福岡県である場合、調停と審判の管轄は、次の様になります。
①調停の場合、福岡県の裁判所には管轄があり、北海道の裁判所には管轄がない。
②審判の場合、北海道の裁判所には管轄があり、福岡県の裁判所には管轄がない。
【実務上の処理】
1 審判移行の場合
遺産分割調停と遺産分割審判とで、管轄裁判所が異なる場合には、裁判所は、申立て又は職権で、遺産分割審判の管轄裁判所に、事件を移送することができます(家事事件手続法9条柱書)。
また、裁判所は、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、当該裁判所に管轄権がない場合でも、職権で、自ら処理することができます(自庁処理)(家事事件手続法9条但書)。
2 付調停の場合
付調停となった場合、原則として、調停に付された事件の管轄権を有する家庭裁判所に事件の処理をさせなければなりません(家事事件手続法274条2項柱書)。
ただし、裁判所は、家事調停事件を処理するために特に必要があるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができます(家事事件手続法274条2項但書)。
また、裁判所は、当該裁判所に管轄権がない場合でも、職権で、自ら処理することができます(自庁処理)(家事事件手続法274条3項)。
3 実務上の運用
審判移行や付調停の場合、どこの裁判所で調停や審判を行うかについては、条文上明記されていない上、裁判所の職権で、移送も自庁処理も行えることから、実務上、裁判所の判断に委ねられていると考えられています。