飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「不貞と慰謝料」についての解説です。
夫婦間のトラブルとして、配偶者の不貞行為及び当該不貞行為に関する慰謝料が問題になることがあります。
慰謝料の請求は、精神的苦痛を損害の内容とする不法行為に基づく損害賠償請求ですので、問題となる不貞行為が、不法行為と評価される必要があります(民法709条、710条)。
もっとも、不法行為に該当し得る「不貞」の概念は一義的ではありませんから、どのような行為が慰謝料請求の対象となる「不貞」に該当するかが問題となります。
この点、不法行為の不貞とは異なり、民法770条1項1号に規定される離婚原因としての「不貞」は、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこととされています。
これに対して、夫婦関係において、不貞行為が不法行為と評価されるのは、当該行為が夫婦の「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」を侵害するからです。
そのため、不法行為に基づく損害賠償請求においての「不貞」の意義は、離婚原因における不貞(民法770条1項1号)よりも広くなると思われます。
この点、判例タイムズ1278号「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」では、配偶者に対する加害行為としての「不貞」について、以下の3類型を挙げています。
①性交又は性交類似行為
②同棲
③上記の他、不貞をされた配偶者の立場に置かれた通常人を基準として、夫婦間の婚姻を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流・接触
【不貞行為と慰謝料】
ここで、不貞行為と慰謝料についての判例を紹介します。
〇最高裁判所平成31年2月19日判決
この判例の事案は、夫が、妻の不貞行為の相手に対して、不貞行為に及びこれにより離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、離婚に伴う慰謝料等の支払を求めた事案です。
最高裁判所は、離婚に伴う慰謝料について以下のように判示しました。
『夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。』
判示のとおり、最高裁判所は、離婚は離婚に至るまでの夫婦間の多種多様な事情に基づいた結果と考えており、特段の事情がない限り、不貞行為だけをもって直ちに離婚させたことを理由とする不法行為とはいえないとしています。
そして、特段の事情については、『当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたもの』と、相当限定的にとらえています。
したがって、この判例からすると、不貞相手に対して、離婚に伴う慰謝料を請求することについては、相当ハードルの高いものといえます。