飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「有責配偶者からの離婚請求」についての解説です。
【離婚について】
離婚は、離婚することについて当事者間の合意があれば、いつでもすることができます。
ですが、一方が別れたくないといった場合には、法律上、離婚事由がなければなりません。
法律上は、以下の5つの事由を挙げています(民法770条1項)。
1 配偶者に不貞な行為があったとき。
2 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
4 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
5つの事由のうち、よく耳にするのは、「配偶者に不貞な行為があったとき。」かと思われます。
夫または妻が不貞行為を行った場合、不貞行為を行った夫または妻の配偶者から離婚請求を行うことは、法律上認められます(民法770条1項1号)。
では、不貞行為を行った夫または妻から離婚請求をすることができるのか、以下で説明します。
【有責配偶者からの離婚請求】
有責配偶者とは、離婚の原因を作った配偶者のことです。
有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。(なお、有責配偶者からの離婚請求であっても、相手が離婚に応じる場合には、離婚は当事者の合意で行うことができるため、通常通り離婚が成立します。)
では、有責配偶者の離婚請求は、何年たっても、いかなる条件をつけても、一切認められないのでしょうか。
この点、有責配偶者からの離婚請求を認めた最高裁判所の判例があります。
〇有責配偶者からの離婚請求を認めた事例
最高裁判所昭和62年9月2日判決(民集41巻6号1423頁)
この判例の事例は、同居12年間、別居約36年間の夫婦において、不貞行為を行い不貞相手との間に子どもがいる夫が、妻に対して、離婚請求を行った事例です。
この事例において、最高裁判所は、『夫婦の別居が両当事者間の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく正義に反するような特段の事情が認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの離婚請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない』と判示しています。
この判例では、有責配偶者からの離婚請求が認められる要件として、3点挙げています。
1 両当事者間の年齢及び同居期間との対比において夫婦の別居が長期にわたっている。
2 夫婦間に未成熟の子がいない。
3 離婚によって、相手方配偶者が精神的、社会的、経済的に過酷な状況にならない。
1の要件については、別居期間が10年をこえると、対比等を検討することなく、長期間であると判断されることが多いです。一方で、別居の期間が10年以下の場合では、単純に別居期間と同居期間とを数量的に対比するのではなく、有責性の程度、別居後の婚姻費用等の分担の有無の程度、時間の経過とともに当事者双方について生じた諸事情、また、これらの持つ社会的意味ないし社会的評価の変化等も考慮されます。
2の要件の「未成熟の子」とは、経済的、社会的に自立して生活することができない状態の子のことをいいます。多くの場合は、未成年者が対象になりますが、未成年者の場合であっても、高校を卒業し、仕事をして給与を得て生活している場合には、未成熟の子ではないと判断されることもあります。
3の要件については、お金の問題になることが多いです。そのため、財産分与や慰謝料等、離婚に伴う経済的な給付の金額が十分なものであるかやその給付が確実になされるか等の事情などを踏まえて判断されます。
これらの要件を見てもわかるように、有責配偶者からの離婚請求が認められるとはいえ、容易に認められるものとはいえないと思われます。