婚姻費用確定前の離婚成立

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「婚姻費用確定前の離婚成立」についての解説です。

 調停や裁判手続きによって離婚しようとする場合には、併せて婚姻費用分担の調停や審判が行われることがあります。

 両者は手続き上、別の手続きですから、具体的な婚姻費用の金額が定められる前に、調停等で先に離婚が成立することもありえます。その場合、調停等で話し合われていた婚姻費用はどういった扱いになるのでしょうか。

 この論点については従前、学説上の対立があります。大きく分けると、婚姻費用が確定される前に離婚が成立すると、調停等における婚姻費用分担請求権は消滅するという見解と、離婚が成立しても婚姻費用分担請求権は存続するという見解です。詳しくは省略しますが、両者ともそれなりに根拠のある見解です。

 そして、この論点について、初めて裁判所が見解を示した事件が最高裁令和2年1月23日決定(平成31年(許)第1号)です。

 この事件は、別居した妻が夫側に①夫婦関係調整調停の申立てを行い、その5か月後に②婚姻費用分担調停の申立てを行い、①については離婚の調停が成立したものの、②の調停については不成立となったため、婚姻費用の分担については審判手続に移行した(家事事件手続法272条4項)というものです。ちなみに、離婚の調停が成立した際には、親権者の指定と年金分割については合意されたものの、財産分与に関する事項は定められず、清算条項も設けられていなかったという事情があります。

 婚姻費用分担の審判手続の第1審は、夫側に対して70万円あまりの婚姻費用分担金の支払いを命じました。一方で、これに対する抗告審においては、離婚の成立によって、妻から夫に対する婚姻費用分担請求権は消滅したため、審判の申立ては不適法却下となると判断されました。

 これに対して最高裁(許可抗告審)は 抗告審の決定を破棄し、抗告審への差戻しを決定しました。その理由として、離婚成立後の婚姻費用分担を求める余地はないのは明らかであるものの、「婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は」なく、「家庭裁判所は、過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから(最高裁昭和40年6月30日大法廷決定参照)、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することができると解するのが相当である」と判示しました。

 つまり、離婚が成立したとしても、裁判所は婚姻費用分担を求める審判の手続きを続行し、婚姻費用の分担額を決定できるということです。

 今回の最高裁決定により、学説上の対立も一応の決着をしたといえます。

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