飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「離婚と青い鳥判決」についての解説です。
夫婦間で離婚するには、3つの手続きがあります(審判離婚を含めると4つになります)。協議離婚、調停離婚、裁判離婚です。そのうち協議離婚と調停離婚は、当事者が同意すれば成立するため、離婚事由が限定されず、仮に理由がなくとも離婚することが可能です。
一方で裁判離婚は、配偶者の①不貞行為②悪意の遺棄③3年以上の生死不明④強度の精神病⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由のいずれかが裁判所に認められなければ、成立しません(民法770条1項)。そして、原告側がこのいずれかを立証すれば(多くは⑤が主張されます)、離婚が認められるのが通常です。
しかし、⑤については、他の離婚事由と比べて抽象的な要件であり、総合的に判断されるので、離婚が認められないケースもありえます。離婚が認められなかった著名な裁判例の一つが「青い鳥判決」と呼ばれる事件です。
「青い鳥判決」とは、平成3年9月20日に名古屋地裁岡崎支部で出された離婚に関する著名な裁判例です(事件番号:平成元年(タ)13号)。その中で、裁判官が夫婦で「青い鳥」を探すべきであると述べたことから、この名称で呼ばれています。
この事件の概要は、およそ30年にわたって結婚生活を送っていた夫婦のうち、妻(原告)が夫(被告)に離婚と慰謝料を請求したというものです。妻は請求の理由として、夫からの苛烈な暴力や度重なるモラハラを挙げていて、夫はこれを否定していました。 一般的にこのような請求がされた場合には(妻側の証拠がそろっていれば)通常は請求が認められると考えられます。しかし、本件で裁判所は、妻の請求は認められない(請求棄却)との判決を出しました。
その判決の理由を要約すると、夫側に落ち度があるものの反省しており、妻側にも多少の落ち度があるから、双方が話し合い、およそ30年にわたる結婚生活を再構築して「二人して何処を探しても見つからなかった青い鳥を身近に探すべく」婚姻を継続すべきというものでした。
この点、平成3年に出された判決であることを考慮しても、長年にわたって暴力やモラハラを受けていた妻に、夫も反省しているから等という理由で離婚を認めないというのは、一般の社会通念からは受け入れがたいものだといえるでしょう。実際、このような事例で離婚が認められないケースは極めて稀だと思います。
この判決を出した裁判官は、諸事情で別居から4年程度にわたり子の面会交流を実施しなかったことを理由に、元夫が元妻に慰謝料を請求したという別の事件で、500万円という高額の慰謝料を認める判決も出しています(事件番号:静岡地裁浜松支部平成10年(ワ)548号)。
ちなみに、同裁判官はいずれの事案でも「社会はゲマインシャフト(共同社会)とゲゼルシャフト(利益社会)に区別される」というドイツの社会学者であるテンニースの「社会進化論」を引用しており、裁判官の独自の家族観が色濃く反映される判決となっています。