飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「生命保険金と遺留分減殺請求」についての解説です。
生命保険金の請求権は指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するものであることから、生命保険金は、基本的に遺留分の算定の基礎には含まれません。
この点、生命保険金の受取人を第三者に変更した場合、この変更手続きが、旧民法1031条における「贈与」になるか問題となった判例(最高裁判所平成14年11月5日判決・判例タイムズ1108号300頁)があります。
「贈与」となった場合、兄弟姉妹を除く相続人は、受贈者に対して、遺留分減殺請求を主張することができます。
事例は、被相続人が、被保険者を自身とする生命保険契約を締結し、当初配偶者を死亡保険金の受取人として指定していましたが、受取人を相続人以外の第三者に変更したというものです。
この点、裁判所は、「自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。けだし、死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべきであり...、また、死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであって、死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないからである。」
このように、生命保険金の受取人を相続人以外の第三者に変更することは、旧民法1031条に規定する「遺贈」や「贈与」、これに準ずるものではないことから、遺留分減殺請求権の対象とはなりません。
なお、民法改正により、遺留分減殺請求の規定(旧民法1031条)は削除され、代わりに遺留分侵害請求の規定(民法1046条)が新設されています。
そのため、遺留分減殺請求における上記裁判例は、遺留減殺侵害請求においても適用されるものと考えられます。
では、受取人が相続人である場合には、受取人となった相続人は、他の相続人よりも多くの財産を相続するのでしょうか。
なお、共同相続人が、被相続人から遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合には、その遺贈又は贈与で受けた財産は、相続財産とみなされ、戻した後の相続財産に基づき、相続分を決めます(新旧民法903条1項)。
この点、被相続人を保険契約者及び被保険者とし、相続人の1人が保険金受取人とする養老保険契約に基づき、相続人が保険金を受領した事例において、最高裁判所平成16年10月29日決定(判例タイムズ1173号199頁)が、以下のように判示しています。
「上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」
このように、保険金受取人とその他の相続人との間で、不公平さが著しい特別な事情がある場合には、特別受益に準じて、当該死亡保険金は、相続財産とみなされます。
なお、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいもの」とは、被相続人の財産額の大部分に相当する死亡保険金の契約が行われていて、相続人の一人がその受取人となっていた場合などです。