飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「持戻し免除の意思表示の推定」についての解説です。
前回解説をした相続の際の特別受益と持戻しについて、令和2年から施行されている改正民法のなかで重要な改正がされているので、ご紹介します。
従前、持戻し免除の意思表示は黙示・明示を問わず、方式も問われていませんでした。しかし、そうはいっても、少なからず「意思表示」が必要ですから、それがない場合、持戻しの免除は行われないことになります。とくに、黙示の意思表示については、立証は容易ではありません。
持戻し免除が行われないとなると、夫婦の一方が亡くなる前に、他方に対して夫婦で居住していた家屋を贈与していたような場合、持戻し免除がされない結果、残された配偶者は預貯金などのほかの財産を相続できずに、生活が維持できなくなる、といった事態に陥る可能性が生じます。
そこで、今回の民法改正では「持戻し免除の意思表示の推定」の規定が新設されました(民法903条4項)。
これは①婚姻期間が20年以上の夫婦の一方(被相続人)が②居住する土地建物を③他方の配偶者(相続人)に遺贈・贈与したという各要件を満たす場合に、持戻しの免除が推定されるという規定です。この推定というのは、持戻し免除について争う者(たとえば、他の相続人)が、これを覆す事実(持戻しをしない意思表示がされていること)を立証しない限り、被相続人が持戻し免除の意思表示をした取り扱いになるというものです。
この規定が新設されたことにより、例えば、上で述べたような、被相続人が亡くなる前にその配偶者に居住している建物を贈与した事案で、持戻し免除の意思表示がされていなくとも、上述の要件を満たしていれば、反証されないかぎり、そのほか預貯金等の相続財産に関して、配偶者は他の相続人との関係で不利な取り扱いを受けないことになります。
このように、相続に関しても、近年では法改正によって変更されている部分もあります。相続でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。