飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による民事訴訟(裁判)の解説です。
ノンコミットメントルールとは、民事訴訟の争点整理手続において、暫定的発言が許容されるという規則です。学部やロースクールではあまり取り上げられていないような気もしますが、実務上は、かなり重要です。
ノンコミットメントルールが徹底されていれば、裁判の期日(下手すると1、2分程度で終わってしまいます。)における口頭による議論が活性化すると思うのですが、実際の裁判では、大した議論もなく「その点については書面で回答します」などとお茶を濁される(あるいは、こちらからお茶を濁す)こともよくあります。
これは、ノンコミットメントルールの理解について各弁護士により理解の度合いが異なり、実際の訴訟において徹底されているかが必ずしも明らかでないことによります。
当職も、「間違ったことを言ったら、裁判所から心証をとられるのではないか」と思ったり、裁判所や相手方代理人から「前回の期日では、こう言ったではないか」などと揚げ足をとられることを心配したりと、要するに疑心暗鬼になって発言を躊躇してしまうわけです。
一方、裁判所や、相手の代理人を信頼(あくまで人間的にですが)している場合などは、口頭による議論がスムーズに進んで充実した審理がなされ、早期解決につながることもよくあります。
ですから、自戒の意味を込めて言えば、争点整理においては、ノンコミットメントルールを徹底して活発な議論を行うことが、ひいては訴訟当事者の利益に資することになると思います。
ところで、弁論準備手続期日での発言記録として、代理人弁護士が作成した法廷報告書と題する書面について、「はなはだ不適切」と判示し、証拠としての適格性を欠くとした裁判例(東京地裁平成12年11月29日判決・判タ1086号162頁)は、かなり踏み込んだ判断をしており、ノンコミットメントルールを理解するのに参考になります。この裁判例からすると、ノンコミットメントルールが以前から知られていたようですが、未だに浸透していないように思えるのはどういうわけかと思ってしまいます。ちなみに、この裁判例でも言及されていますが、同じ目的を達するなら弁論準備手続調書(民事訴訟規則88条1項)に記載を求めればいいわけです。
ところで、いくらノンコミットメントルールがあるからといって、争点整理段階で代理人弁護士がことさらに虚偽の事実を語るとすれば、それは、訴訟の結論に影響が出るかどうかはさておき、法曹倫理上の問題はあると考えます。