飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「歯を削る行為は傷害罪にあたるか」の解説です。
令和2年3月24日、岡山の歯科医師が、治療の必要のない部位を削るなどしたとして、傷害で起訴された事件について、無罪判決が言い渡されました。後にこの事件は無罪判決で確定しています。報道によると、被害を申告した人は、70人を超えているともいわれていました。
検察側は、歯科医師が、治療費を請求するために、痛みとは関係のない健康な歯を削るなどしたと主張していました。これに対して、裁判所が無罪とした理由は、歯科医の誤診に基づいて必要のない部分の歯を削ったというには、合理的疑いが残る(証拠が不十分である)とのことでした。
この点、そもそも歯を治療のために削るというのは、刑法204条で規定されている傷害罪にいう「傷害」に該当するのでしょうか。
まず、「傷害」とは、「身体の生理的機能を害する」ことであると理解されています。
通常、髪の毛を切ったり、爪を切ったりすることは、身体の生理的機能を害しているとはいえず、「傷害」行為には該当しません。散髪や爪切りといった行為は身だしなみを整えるために日常的に行われますし、髪や爪は通常、時間経過とともに再生していくものだからです(ただし、髪の毛を毛根から引き抜いたり、深爪して出血させた場合には、身体の生理的機能を害しているといえます)。
一方で、歯というものは、食べ物を咀嚼するのに重要な器官ですし、永久歯になった後には、伸びることはなく、再生することもありません。この点から、歯を削ることは「身体の生理的機能を害する」ことに該当するといえます。
ですので、歯を削る行為は、傷害罪にいう「傷害」という行為(構成要件)には該当すると考えられます。
ただし、刑法上の犯罪が成立するには、構成要件に該当することのほかに、違法性や責任能力があることが必要です。歯の治療を含む医療行為は患者の同意があるのが通常ですから、一般的な医療行為の場合は違法性がなく、罪に問われることはありません。