飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「自転車の無断借用」についての解説です。
令和2年の9月28日に、福岡地裁での刑事裁判において、無罪の判決が出されました。その事件が興味深いものだったので、ご紹介します。
その事件は、被告人が、アパートの駐輪場に駐車してあった他人の自転車を、無断で複数回、数時間乗り回し、もとの場所に戻していたというものです。この行為について、被告人は占有離脱物横領罪の疑いで起訴されていました(なお、この自転車は、盗まれるなどして所有者の管理から離れていましたので、窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪での起訴になっています。)。通常の窃盗とは区別される「使用窃盗」といわれる事案です。
この点、窃盗罪や占有離脱物横領罪などの財産犯の成立においては、器物損壊罪等との区別として、「不法領得の意思」が必要とされます。
不法領得の意思とは、①所有者などの権利者を排除して自己のものとする意思(権利者排除意思)と②その物を使用したり売却したりする意思(利用処分意思)の2つの要素で判断されます。
そして、本件において裁判所は、被告人の行為は「一時的な無断借用に留まる」ため、①の権利者排除意思に欠け、不法領得の意思があったとはいえないと判断し、無罪判決を下しました。
本件では、自転車は無施錠のまま置かれていたという事情があったため、その点では被告人が権利者を排除した要素が小さいと判断されたと考えられます。他方で、被告人は少なくとも合計で15時間程度自転車を利用していたようです。こちらの事情は、自転車を長時間占有していたということで、権利者排除意思があったとの判断に傾く要素であると考えられます。
以上から、本件については、権利者排除意思の有無について、どちらとも判断される要素があったと思います。裁判所によっても判断が分かれうるような事案であるといえるでしょう。