飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「押収拒絶権」についての解説です
令和元年の年末から話題になっているカルロス・ゴーン被告人の一連の事件に関して、同被告人が使用し、弁護人が管理しているパソコンにつき、差押令状に基づいた差し押さえが行われました。ところが、これに対してゴーン被告人の弁護人は、押収拒絶権といわれる権利に基づいて、この差し押さえを拒否したとの報道がなされました。
では、この押収拒絶権とは、何なのでしょうか。
まず、押収とは差し押さえを含む広義の証拠確保手段のことです(刑事訴訟法99条以下)。そして、差し押さえとは、証拠品等の物について、その占有を強制的に捜査機関に移すことをいいます。これは強制処分と呼ばれるものの一種で、裁判所が発する令状がなければ許されません。
裁判所が令状を発する以上、通常はこれを拒絶することはできません。
ところが、これを拒絶できる例外が刑事訴訟法に設けられています。これが押収拒絶権です。刑事訴訟法において、「・・弁護士・・の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる」と規定されています(刑事訴訟法105条本文)。
つまり、ゴーン氏の弁護人は、この条文に基づいて、パソコンが「弁護士」が「保管」している「他人の秘密」に関するものにあたるとして、差し押さえを拒絶したと考えられます。 他方で、同条の例外として「本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。」との規定もあります(刑訴法105条ただし書)。
この押収拒絶権に関しては、被告人本人が所有・保持している場合には差し押さえを免れることはできないのに、弁護人に預けた途端に差し押さえを免れることができるため、差し押さえ逃れに同規定が濫用されるおそれもあるといえます。