飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「保釈中の被告人の逃亡」についての解説です。
令和元年の末ころ、日産の元CEOであるカルロス・ゴーン被告人がレバノンへ出国したことは、大きな騒動になりました。このように保釈中の被告人が海外へ逃亡したケースでは、いかなる刑罰が科せられるのでしょうか。
この点、まず保釈中の被告人が逃亡する行為自体は、実は刑法上は、何らの犯罪にも当たりません。
なぜなら刑法上、逃走の罪として罰されるのはいずれも「拘禁された・・者」(刑法97条~102条)だからです。「拘禁」とは、簡単にいうと勾留などによって身体を拘束されている状態を指しますから、保釈中で「拘禁」されていない人は、本罪の対象にはならないのです。
また、犯人蔵匿罪・隠避罪(要は被疑者・被告人をかくまったり逃がしたりすること(刑法103条))や、証拠隠滅罪(刑法104条)は、「他人」の犯罪について行った人を処罰するものですから、自己に犯罪に関して行った場合は処罰されません(もっとも例外的に、自己の犯罪に関して他人を教唆して犯人隠避等を行わせた場合等には、処罰されます)。
以上のように、刑法上は保釈中の被疑者・被告人が逃亡しても、刑法上は何らの犯罪にもならない可能性が高いのです。
ただし、被告人が保釈される際に保釈保証金を預けていますが、逃亡等により保釈取消となった場合(刑事訴訟法96条1項)には、裁判所の決定により、これが没収されることがあります(刑事訴訟法96条2項)。
カルロス・ゴーン被告人の保釈保証金総額15億円については、既に東京地裁は全額没収とする処分を決定しています。また、逃亡などによって保釈が取り消されると、再び勾留が開始され、身体が収容されることになりますから(刑事訴訟法96条1項、刑事訴訟法98条)、刑法上の刑罰ではないものの、事実上のペナルティはあります(保釈取消についてはこちら)。
ちなみに、一部報道によると、カルロス・ゴーン被告人はプライベートジェットを用いて正式な出国確認を経ずに国外へと脱出したとされています。これが事実ならば、刑法とは別に、出入国管理及び難民認定法25条違反で1年以下の懲役に処せられるおそれがあります(同法71条)。