飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「退職代行サービスと非弁行為」についての解説です。
最近話題になっている「退職代行サービス」とは、辞職を考えている労働者の代わりに業者が使用者に退職を申し出るというサービスのことを指します。電話やメールでの受付で全国対応している業者も多いようで、インターネット検索するといくつも該当します。有料で、相場としては5万円前後の手数料が一般的なようです。「退職代行サービス」を行っている業者は特別な資格を有しているわけではないようですが、弁護士による「指導」を受けている会社もあるようです。
この「退職代行サービス」がいわゆる「非弁行為」に該当し、違法なのではないか、という指摘がなされています。 この点、弁護士法72条は「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定しています。
つまり、①弁護士以外の者が②報酬目的で③「法律事件」の「法律事務」を④「業として」行うことは、原則として「非弁行為」に該当し許されません。これに違反すると2年以下の懲役または300万円以下の罰金に科される可能性があります(同法77条3号)。
そして「退職代行サービス」が、①②④にあたるのは明らかですから、③「法律事件」の「法律事務」が行われているかが問題となります。 この点については、退職代行サービスが「労働者の代わりに業者が使用者に退職を申し出る」に留まる限りにおいては、サービスの業者は労働者の「使者」(単に意思表示を伝えるだけの機関)ということになりますから、「法律事務」を行うことには該当しないと考えられます。
さらに、業者が退職代行に留まらず、未払い賃金請求や有給取得請求まで(「法律事務」といえる範囲まで)代行したとしても、すぐに「非弁行為」だと断言することはできません。なぜなら、非弁行為が争われた刑事事件において、最高裁は「交渉において解決しなければならない法的紛議が生じることがほぼ不可避」であることが「法律事件」該当性の一つのポイントになると考えているようだからです(最判平成22年7月20日・刑集64巻5号793頁)。つまり、未払い賃金請求や有給取得請求を代行しても、その段階においては「法的紛議が生じることがほぼ不可避」であるとまではいえないケースもありえますから、その場合には「法律事件」を業者が取り扱ったとはいえません。
要するに、「退職代行サービス」が「非弁行為」として違法であるかは、業者の代行の態様や、使用者側と労働者側の対立具合などによって左右されるものであると考えられます。もっとも、退職代行サービスにおいて、実際どのようなやり取りがなされるかは不明ですし、個々の業者によっても違いはあるでしょうから、違法性の判断は困難なものといえます。
とはいえ、とくに複雑な事例や当事者が対立している事案などは「退職代行サービス」が「非弁行為」に該当するおそれも高まりますし、未払い賃金の支払いや有給取得などの権利が十分に確保されないことも考えられますから、専門の資格を有している弁護士に相談される方が安心だといえるでしょう。