飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による、「離職票の交付が遅れた場合」の問題点についての解説です。なんらかの理由により、離職票の交付を受けることができないという相談を受けることがたまにあります。このような場合の当事者の利害関係や法規制についてまとめてみました。
<離職票に関する規制>
・雇用保険の基本手当(いわゆる「失業手当」):受給資格者が公共職業安定所(いわゆる「ハローワーク」に離職票等の申請書類を提出して失業認定を受けた日(雇用保険法15条)から最低90日間(雇用保険法20条1項本文、同法22条1項3号)支給される(雇用保険法20条1項)。
・基本手当の受給期間中に就職したときは、基本手当の残日数に一定割合を乗じた額の就業促進手当(「失業手当」とは別です。)が支給される(雇用保険法56条の3)。
・退職日の翌日から起算して10日以内に事業所所在地を管轄するハローワークに離職証明書等の必要書類を添付して雇用保険資格喪失届を提出する義務(雇用保険法7条、同法施行規則7条1項)。
・会社が期限内に雇用保険資格喪失届の提出義務を履行しない場合の刑事罰(雇用保険法7条、83条1号、86条1項)。※6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金
・離職票の発行:ハローワーク(「公共職業安定所長」)が行う(雇用保険法施行規則17条1項)。
<事業主の損害賠償責任の有無>
離職票の交付が遅れ、ハローワークに必要書類を提出できないと、失業認定が遅れ、基本手当の受給開始期間も遅れる。そして、仮に、受給期間中に、新たに就業した場合、本来よりも短い期間の基本手当しか受領できなくなってしまう。では、離職票の交付の遅れについて、事業主に原因がある場合、総受給額の減少分について、事業主は退職者に対して債務不履行または不法行為を理由に損害賠償義務を負うか。
<大阪地裁平成元年8月22日判決・労判546号27頁>
「事業主は、その雇用する労働者に関し、被保険者となったこと、被保険者でなくなったこと等を労働大臣に届け出なければならないが(法7条)、事業主が右届出義務を怠る場合には、労働者の失業給付を受ける権利がそこなわれることにもなるので、直接労働者本人から被保険者資格の得喪に関する確認の請求を行うことができるものとし、過去に雇用されていた者であっても、その雇用されていた期間にかかる被保険者の資格について右確認請求をすることができる(法8、9条)。」「右確認請求は事業主の事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に対し、文書又は口頭で行うこととされている(雇用保険法施行規則8条)。」といったことを理由に「事業主である被告の本件不履行にかかわらず、原告は公共職業安定所の長に対し、自己の被保険者資格の得喪に関し確認の請求を行うことができ、その確認を受ければ、被告が法定の手続を履践した場合と同額の基本手当を受給することは可能であるから、被告の本件不履行により、原告に基本手当相当額の損害が生じたとの主張は失当である。」と判断して、損害賠償請求を認めませんでした。とすると、結論的には、事業者による離職票の交付が遅れても、損害との相当因果関係を欠くことになり、会社が退職者に対してただちに民事上の損害賠償義務を負うことはないと考えられます。